当ワークショップでは、現代の標準的なイギリス英語(SSB: Standard Southern British)の自然で明瞭な発音を身につけることを目標に、音声学の知見に基づいたマンツーマン指導を行っています。単なる“真似”ではなく、なぜその音になるのか、どこをどう動かせば出せるのか、を理論と実践の両面から丁寧に説明します。
レッスンでは、まず、英語の子音の学習からスタートします。特に日本人が苦手としやすい子音 /l/ と /r/、/f/ と /v/、/θ/ と /ð/ などに重点を置きつつ、日本語にはない鋭い /t/ や /s/ についても、英語らしい音色の習得を目指します。舌の位置・口の開き具合・唇の形などを一つ一つ確認しながら、正確に発音できるよう丁寧にトレーニングしていきます。
子音をマスターした後、母音(短母音7個、長母音6個、二重母音7個、計20個)の学習に入ります。日本人の英語発音がネイティブと違って聞こえる大きな原因は母音のズレにあります。日本語の「あ・い・う・え・お」だけを使って英語を話そうとすると、bank /bæŋk/ と bunk /bʌŋk/ のどちらも「バンク」となってしまう典型的な混同が起きてしまいます。こうした問題を避けるため、IPA(国際音声記号)を用いて、各母音を明確に、そして瞬時に、識別・再現する力を養います。
また、イギリス発音とアメリカ発音の響きの違いは母音の音色がその主因なので、イギリス英語らしい響きが再現できるよう、トレーニングを重ねていきます。具体的には、cat /kæt/ の /æ/、pot /pɒt/ の /ɒ/、bird /bɜːd/ の /ɜ:/、ask /ɑːsk/ の /ɑ:/、goat /ɡəʊt/ の /əʊ/ などです。日本人がイギリス英語の発音を学ぶ際の、大きなヤマがこの母音の習得にあります。
日本語の母音でほぼ代用できる母音もあるので、学習時間にメリハリを付けつつも、bird /bɜːd/ の /ɜ:/ や、goat /ɡəʊt/ の /əʊ/ 等の難易度が高い母音については時間をかけて取り組みます。
母音・子音ともに、舌の位置、口の開き具合や唇の形にも留意しながら、具体的にどうすればその音が出せるのか、を音声分析ソフト「Praat」(使い方の解説動画はこちら)も活用しながら、分かりやすく客観的に説明しながら正しい発音に導いていきます。
ある程度、個々の発音が出来るようになった段階から、以下のような音声変化も並行して学習に取り入れていきます:
・リンキング(音の連結)
・同化(隣接音の影響による変化)
・脱落(音の省略)
・弱化(あいまい母音 schwa /ə/ を用いた非強勢化)
・鼻腔開放(例. cotton)、側面開放(例. middle)
・同時調音(例. please)、子音連結(例. train, dry)
これらの音声変化は、英語らしいリズムを生み出すうえで欠かせない要素です。日本語では「声門閉鎖」といって、文末で息を止める現象がよく見られますが、これをそのまま英語に持ち込むと、ぎこちなく不自然な印象を与えてしまいます。また、日本語の感覚のままで話すと、cat のように子音で終わる単語に、不要な母音を加えて「キャット」のように発音してしまうこと(母音添加)があります。音声変化を意識して発話することで、こうした傾向を抑え、単語同士が自然につながる“滑らかな”英語に近づけます。
通じる英語に欠かせないのは、個々の音だけでなく、リズムやイントネーションといったプロソディー(韻律)と呼ばれる、発話全体のリズムや抑揚の構造です。個々の発音がやや日本語寄りでも、リズムやピッチが自然であれば、ネイティブには格段に通じやすくなります。ですので、レッスンではこれらのプロソディーの習得にも十分な時間をあてて英語への理解を深めていきます。
リズムに関しては、内容語(名詞・動詞・形容詞など)に強勢が置かれ、機能語(冠詞・助動詞・接続詞など)は弱く発音されます。この強弱のパターンが英語独特のリズムを生み出します。なお、機能語でよく現れる「あいまい母音 schwa /ə/」 は、英語らしいリズムを作り出す鍵でもあるので、常に意識しながら学習を進めて行きます。個々の音の学習がある程度終わった段階から、Nursery Rhymes(マザーグース)や詩の朗読を通じて、英語らしいリズムを身につけていきます。
イントネーションに関しては、日本人が苦手とする「ピッチ」(音の高低)のコントロールが重要な学習事項となります。正しいピッチが使えない日本人の英語は、ネイティブからすると平坦かつ単調に聞こえ、ロボットが話しているかのようだ、と感じる人も少なくありません。逆に正しいピッチコントロールができるようになると、メロディーがある自然なイントネーションで英語を話すことができます。
イントネーションの説明の際には、
・音声分析ソフト Praat(使い方の解説動画はこちら)を使い、モデルと自分のピッチ曲線を比べたり、
・ピッチパターンを五線譜の様に表現した図(こちらのページ中段にある図)を用いて、
正しいイントネーションの習得を目指していきます。
このようにしながら、レッスンでは基本的なイントネーションパターンを習得し、課題例文のイントネーションを忠実に再現できるまで、同じ例文を繰り返し音読しながら、リズムやピッチの微調整を重ねていきます。そして、最終的には "The musicality of speech" 、すなわち、英語特有の“音楽性”が伝わるイントネーションを目指します。プロソディーが整うと、伝達力が飛躍的に高まり、「英語らしい響き」が自然に相手へ届くようになります。
当ワークショップでは、宿題をレッスンと同等、あるいはそれ以上に重要な柱として位置づけています。最終的に発音の習得のカギを握るのは、ご自分で机に向かって時間をかけて行っていただく自習です。毎週とはいえ、短時間のレッスンだけで正しい発音の定着を図ることは現実的ではありません。
宿題では、レッスンで学んだポイントが含まれる課題を練習・録音していただき、その音声ファイルを提出していただきます。当方では、それを問題点の分析のために、再生速度を調整したり、ピッチ分析を行いながら、何度も音声を聴き直します。そして問題点を抽出し、その解決法を考え、感覚に頼らない、客観的かつ具体的なアドバイスや添削を用意します。
レッスンでは、添削結果を提示したうえで、問題点とその解決方法を解説し、繰り返し矯正を行っていきます。なお、問題点によっては一回で矯正することが難しい場合もしばしばです。このような場合には、同じ内容の課題の再提出を数回にわたってお願いすることもあります。内容によっては、提出された課題の問題点を解説し、練習するだけでレッスン時間を使い切る場合もありますが、このようにしながら各レッスンのポイントを確実に習得することを目指します。
発音指導は、集団形式には適していません。参加者が二人いれば、一人にかけられる指導時間は単純に半分となり、学習効率も大きく低下してしまいます。そのため当ワークショップでは、受講者一人ひとりに集中できるマンツーマン形式のみでレッスンを行っています。
すべてのレッスンは代表が担当し、受講者ごとにレッスンプランを立て、事前に準備を整えたうえで、計画的かつ一貫性のある指導を行っています。プライベートレッスンならではの柔軟性を活かし、それぞれの目標や課題に応じた最適な内容を提供しています。
新型肺炎の流行を踏まえ、当面のあいだレッスンは Zoom を用いたオンライン形式のみとさせていただきます。オンラインレッスンでは、対面時のホワイトボードの代わりに、講師が iPad のノートアプリに板書し、その画面を受講者とリアルタイムで共有しながらレッスンを進めます。さらに、クリアな音声や動画資料も併用できるため、対面レッスンと比べても遜色のない内容を提供できます。
レッスンに関して不安なことやご質問などありましたら、小さなことでもお気軽にお問い合わせください。Zoom を使ったオンライン面談も可能です(30分程度、無料)。
私の好きなイギリスの児童文学である C. S. Lewis のナルニア国物語「魔術師のおい」の冒頭を2分程朗読してみました。テキストはこちらからお読みになれます。
またシェイクスピアのソネットの朗読もブログでお聞きになれます。
日が射し込む明るい部屋です。対面レッスンはこちらで行っていました。